松家仁之「火山のふもとで」

火山のふもとで
久々の堪能した作品。この作家を別のとこ
ろ、編集者としての実績から知り、退職後
小説を書くことを知り、処女作品が賞を取
ることを知り、その作品が中村好文を一部
モデルにしているかのような書評を読み、
建築家の建築設計のプロセスが書かれてい
ることを知り、私はようやく手にした。
たまたま京都の恵文社一乗寺店で買ったの
で(それはこの本に相応しく思えた)、新
刊ながらあの本屋の懐かしい匂いがして、
私はゆっくりと読みはじめた。
軽井沢の山荘と自然の描写が繊細で豊潤で
丁寧すぎるくらいの文章で物語は静かに進
んでいく。恋愛に行くところがもう少し動
きがほしい、先輩の心の動きをもう少し書
きこんでほしいとかの欲もあるのだが、大
きな豊かな物語を味わったのだと思う。