村上春樹「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
いつから村上春樹の本は消費財のような異様
な販売方法を取るようになったのだろうか。
ノーベル賞候補作家でベストセラーになるの
は別にかまわない、本は読まれるに越したこ
とことはない。でも彼はどう思っているのか。
ストーリーはどんどん読んでいける、つくる
が立ち直りエンジニアとして生きていく描写
はうまい、でも絶交の理由にリアリティがな
い、しかもずっと放っておかれているのに理
由がない。今の作品が震災後の手掛かりを残
さないわけがなく、死の表現が間接的に想起
させるが、そこは読み直さないともうひとつ
感じ取れていないのは私の力不足。
青赤白黒。青は春、普通の社会人としてがん
ばって生きている。赤は夏、みずからビジネ
スの闇の熱気の中に入っていく。白は秋、西
方へ行ってしまった。黒は冬、寒いフィンラ
ンドへ。なんとなくそのイメージどおりの符
丁。
村上春樹はもともと名古屋気質を揶揄してい
たが、名古屋人は大都会の地縁のなかですべ
てはここにあると満足して暮らしている。
(私も名古屋人でそういう気質を持つ自分に
小さな違和感もあったが、転勤で外へ出ると
そのことがよくわかった)そんな名古屋を舞
台に選んでいるのは、そういうところを飛び
出していくつくる君が設定しやすかったから
か、神戸ではそうはいかなかったからか。
1979年のデビュー作から一貫して読み続
けており、当然変化していく彼をフォローし
て好きだ嫌いだ、変わっちゃったなと云うの
は勝手な話で、私はひとつの小説として、不
満もあったけどやっぱり面白く読んだ。十数
年ぶりに再会した女友達をハグして励ましの
言葉をもらう場面はセンチメンタルといわれ
てもやっぱりいい場面だ。