読みました。ちょっと冬ソナに気持ちが
行っているけど、なんのなんの高村薫の
圧倒的な世界観、この言葉はあまり使わ
ないけど言ってしまおう、感動した。
シャープに勤めながら農家の婿養子に入
る、妻に先立たれ、定年後農業をはじめ
る、コメ作り、茶畑、科学的探究をしな
がらのめりこんでいく72才の男の物語。
妻との関係、娘、孫との関係、集落の因
習、その人達との関係、いろいろなこと
があるがそれは物語の主軸ではない、た
だの日常である。あるのは彼が生きてい
る生活のすべて、老いが忍び寄り、過去
の記憶への振り返り、土地が持つ歴史性
(神武天皇による建国神話の舞台のひと
つらしい)、それらが畳みかけるように
重層的に語られ、圧倒される。
どれほどの取材をしたのだろうか、緻密
な記述、無駄ではない、それが村と彼の
すべてを描きだす。事件が起きるわけで
はない、それでも上下巻ぐいぐいと力技
で読ませる。
72才、彼は生きている。そしてラストの
驚愕、生きていると云ってくれ。