外岡秀俊が亡くなったという記事を読んだ。
彼が「北帰行」で1976年文藝賞をとり単行
本を買って読んだのはすぐだったか、働き
だしてからだったか。就職して小金を得た
ので同世代の新人作家の単行本をいろいろ
もそれで、外岡秀俊は1953年生れだったし、
「北帰行」には感心していたので、作家に
ならず新聞記者になったのには驚いたもの
だ。その後、朝日新聞の戦時下の報道責任
を企画したりして、熱心な読者ではなかっ
たが遠くから関心を持ってきたのだが、ほ
ぼ同世代なのに亡くなったことに少なから
ぬショックであった。
記事を見ると、早期退職後、中原清一郎名
義で小説も書いていることを知り、早速読
んでみた。
「カノン」、近未来の脳移植により58才の
男性が32才の女性の海馬と交換し生きてい
くという入れ替わり物語だが、前半は生き
るとは何か自分とは何かという哲学的な問
いかけがあり、緊張感があった。後半は移
植後の日常に順応していく過程で、ジェン
ダーのことはともかく、子供のいじめとか
職場でのいやがらせなど卑近な話が出てき
て、最後は泣ける話に持っていったところ
はいくらか残念だった。それでも「北帰行」
の作家が豊富な記者経験を経て、読み応え
のある物語を書いてさすがであった。
それにしてもこれからという68才没、合掌。