辻原登「枯葉の中の青い炎」

さあ、続けて短編集、全6編である。

「ちょっと歪んだわたしのブローチ」

ミステリーのようでホラーのようで、夫

の我儘に妻が正気か狂気か堕ちていく話、

強い余韻が残る。

「水いらず」

ロッジの管理人が匂いに反応し幻覚を見

て現実が揺らいでいく。

「日付のある物語」

大阪の三菱銀行事件にありえたかもしれ

ないもうひとつの事件を絡めて虚構に満

ちた話に持っていく、不思議な話。

「ザーサイの甕」

ザーサイと金魚の蘊蓄から話はとんでも

ない方向へ進みいわゆるマジックリアリ

ズムである。

「野球王」

子供の頃の野球王との記憶と、古いエレ

ベーターの蘊蓄が繋がり、ほんとうの記

憶なのかわからないものを思い出す。

「枯葉の中の青い炎」

名投手スタルヒンの史実にパラオの酋長

アイザワ(きっと実在しない)の交流と

いうか助っ人というか奇妙な話に惹き込

まれその味わいに満足する。

それぞれ変な話なのだが、愉快というか、

愉悦というか味わい深い読後感を持った。