久しぶりに沢木の新刊「銀河を渡る」を読
んだら、その前の小説「春に散る」を読も
うという気になったので、図書館で借りて
きて一気に読んだ。
ノンフィクションの「一瞬の夏」とフィク
ションの「春に散る」とどうしても比べて
しまう。前者は事実しか書かないというこ
とでスリリングというか緊張感に満ちてい
るが、後者は自由に物語れるので脇役も生
かされて、伏線は回収され、展開が豊富で
あり、凝った構成だなと感心するが、あの
緊迫したものがない。それを望んではいけ
ないのだろう、これは沢木が経験したボク
シングの蓄積をすべて出しきった物語であ
る、しかも主人公は高倉健なのである。
60を過ぎて心残りなもの、悔いのような
ものを、かつての仲間たちと成し遂げよう
とするファンタジーである。同世代として
それでいいのだと思いたい。