松家仁之「泡」

新作を期待している数少ない作家の新刊が

出たので早速読んだ。学校や世間と折り合

えない高校二年の青年が、遠くの叔父さん

の店に身を寄せて自己を確立していく話な

のだと思う。

この青年の心情はわたしのあの頃と共有感

があり自分事のように読んだ。そこになか

ったのは叔父さんでいわゆる「寅さん」が

いることで乗り越えられる、折り合うこと

を会得する、対峙する力を養う、戦い続け

る等どんなかたちにしても次へ進めるよう

になる。泡に溺れ、泡を溜め込み、否定を

せず吐き出すことで次へ進むことを、この

静かな端正な文章は表してくれる。

本を読むちいさな幸せなゆったりとした時

間をもらった。

泡 (集英社文芸単行本)

泡 (集英社文芸単行本)