吉田修一「路(ルウ)」

台湾新幹線の開発竣工開通までのドラマだ

と思っていたらそういう話ではなかった。

それに絡む4組の人間模様、恋愛であり、

家族であり、親友であり、悪人がひとりも

でてこないいわゆるいい話で読ませる。

台湾へはいちど行ったことがあるが、確か

に猥雑さとゆったりさと誠実さが混ざった

好感を持った台北の想い出を思い出す。

そういう記憶とこの物語が交ざって気持ち

のよい読書となった。いい話すぎるとはこ

こでは云わない。

路 (文春文庫)

路 (文春文庫)

 

 

ジョン・フォード「わが谷は緑なりき」

1941年アメリカ映画。この年に戦意高揚映

画だけでなく、19世紀末のイギリス・ウェ

ールズの炭坑町の伝統と信仰を守る家族の

物語を端正に綴る、そういう映画を撮って

いる。

劇的なハッピーエンドはない、およそ世の

中に流され負けていく、けれどもこの一家

には愛情と善意と奉仕がある。家父長制で

はある、女は意志を持てない、労組は単純

社会主義である等今から見れば封建的な

ところはある、そういう時代である。でも

普遍的なのものはいまでも観るものに十分

伝わってくる。そういう古くならない映画

である。女は意志を持てないと書いたが母

親が皆の前で訴える、夫のため子供のため

にしかと主張する、良し。

わたしにとってウェールズはよくわからな

い地域である。スコットランドやアイルラ

ンドはイングランドとの軋轢等もいささか

知っている、しかしウェールズはわからな

い。ジョン・フォードの詩情というのか、

それが発揮された映画、見事。

わが谷は緑なりき(字幕版)

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原田マハ「ロマンシェ」

パリのリトグラフ工房idemは、芸術新潮

記事で知っていた。そこを舞台に、若い画

家志望とハードボイルド作家とあれこれが

軽妙にコミカルにはじけて活躍する、原田

マハお得意のアート小説。これはこれでい

いでしょう。これを機に東京ステーション

ギャラリーで展覧会を取り仕切ったようで

その活躍ぶりは衰えがない。

ロマンシエ (小学館文庫)

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「ダブル・ジョパディー」

また緊急事態宣言が出て、プールは休業、

ジムはもうずっと休業、会合も中止、テレ

ビやwebのニュースはうんざり、日常のル

ティーンの家事をきちんとやって、趣味

のことをこつこつやって、散歩に行って、

買い物行って、テレビで映画を見て、本を

読んで、これも普通の生活。でもなあ。

テレビ映画は、きのうはこれ。

ダブル・ジョパディー

うーん、復讐のためなら、こどもに会うた

めなら、人の車を壊しても法を破っても平

気というのは興ざめ。ダブル・ジョパディー

(二重処罰の禁止)という大事な設定が使

われていないのはどういうことか。

ダブル・ジョパディー [DVD]

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  • 発売日: 2006/09/08
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「LION 25年目のただいま」

インドで5歳のときに迷子となり家族と離

れ離れになってしまい、養育院で運よくオ

ーストリアの夫婦の養子となるが、30歳の

ときに実母や兄に会いに行こうと企み、イ

ンドを再訪する話である。

ドラマとしてはありそうな話なのだが、実

話を基に映画化されているらしく、多くの

行方不明の子供たち、貧困と隣り合わせの

子供たちのリアルが描かれる。一方で養子

をもらう夫婦として、ニコール・キッドマ

ンが我が子としてすべてを受け入れる信念、

愛情を表現し、むつかしい役を演じ好感。

主人公は「マリーゴールド・ホテルで会い

ましょう」で見たデーヴ・パテール。

しっかりとしたずっしり感のある映画だった。

LION/ライオン ~25年目のただいま~ [DVD]

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  • 発売日: 2018/10/05
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カズオ・イシグロ「クララとお日さま」

ミーハーなつもりはないのだが、カズオ・

イシグロの受賞第一作が出たので読んだ。

AI搭載の人型ロボットとある家族との交流

の話なのだがいくつもの流れがありじっく

り読ませる。人間の心を慮るロボットは好

感を持たれ、かつ敵意を抱かれる、家族の

中で人と同じように扱ってもらえず、(近

未来の人間も選別されている)、あくまで

献身することだけである。

意志を持つロボットはもちろん感情を持つ、

街角で老人男女が久々の再会し抱き合うの

を観察する場面があるのだが、その想いが

わかるいい場面がある。

日本人はペットを家族のように扱う、ルン

バですら〇〇ちゃんと呼んでいる人がいる、

では、AIロボットをごみとして捨てられる

か。人のこころ、感情とは何か、他者への

かかわりについて深く問いかける。

太陽の光が希望を与え、心の奥深くに触れ

るような物語だった。

クララとお日さま

クララとお日さま

 

ktoshi.hatenablog.com

 

「みじかくも美しく燃え」

1967年のスウェーデン映画。美しい純愛

映画だと当時の中学か、あるいは高校の時

に2番館上映で知ったのか、そういうイメー

ジの映画である。

さて、50余年経って、これは道行の映画

だ、純愛映画だなんてとんでもない、先の

見通しのない男のふがいなさ、だらしなさ

の映画だ。

美しいピア・デゲルマルクと美しい風景、

そこにモーツァルトのピアノ協奏曲第21番

が流れる、うっとりするような映像美でご

まかされてしまう。

ちゃんと除隊して、階級が違うなら駆け落

ちすればいい、でもダメ男の道行、曽根崎

心中でも男はバカみたいだからな。

結論、美しくいい映画だった(何故だ)。

みじかくも美しく燃え HDリマスター版 [DVD]

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  • 発売日: 2020/12/21
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