平野啓一郎「マチネの終わりに」

マチネの終わりに
恋愛小説が成立しにくい時代だといわれる。
障壁になることはあまりない、スマホなど
でいつでも連絡できる、不倫だって切実さ
はない、だからこそ作家は新しい恋愛小説
に取り組む。
平野啓一郎ははじめて読む、ヨーロッパ的
な小説を書く人かなと敬遠していたが、な
かなか硬派な発言をしていて好感を持った
ので、評判がいいことを知っていた作品を
読むことにした。
ひさしぶりに目が離せない、一気に読むし
かない、それでいて終わりがきてほしくな
い物語、彼氏は世界的ギタリスト、彼女は
世界を股にかけるジャーナリスト、シリア
紛争に取り組むという、まあちょっと日常
ではないカップル、しかも教養は十分、高
度な議論を交わしている。普通ならそれで
読む気を失せるのだが、この女性の輪郭が
とても丁寧に描かれていて作り物であるに
してもリアリティを感じさせ彼女に寄り添
うように読んでいく。40前後の大人の恋
愛なので節度もあり相手のことも考えすぎ
てしまう、そのすれ違いが新しい恋愛小説
となっている。いささか気取りすぎな話で
あったとしても十分に堪能した。