三木卓「馭者の秋」

馭者の秋 (集英社文庫)

馭者の秋 (集英社文庫)

先に文庫本を整理処分したと書いた。その
なかで読んだ記憶がない本が何冊も出てき
てそのうちの一冊、三木卓の本が引っかか
り読んでみた。
これは感動したというよりなにか心に突き
刺さるような読後感。88年に文庫化されて
購入しているので34か35才のときに読んだ
んだろうがそのときはなにも引っかからな
かったのかもしれない、でもこの年令にな
ってこれは吸い込まれていく。息子の恋人
に嵌り込んでいく話である、息子の順当な
人生を歩むべき婚約者に対してでなく魅惑
的な恋人(息子は迷っている)に惹かれる
息子を差し置いて主人公が嵌っていくとい
うとんでもない話である。
いやあこの主人公はすごい、なぜか共感す
る。主人公はこんなことを云う「わたしは
依然として成熟することができず、未熟の
まま老年をむかえようとしている、という
気持ちを捨てることができないでいる」
これは私の気分と同じである、いや、30年
近く前に読んだ記憶を引張っているのだろ
うか。それでもういちど私の手元に手繰り
寄せたのだろうか。