菊池史彦「幸せの戦後史」

「幸せ」の戦後史
ずいぶん遠くまできてしまったんだ、と、
いまの立っているところを確認する次の一
冊。朝日新聞の書評欄で紹介されていたの
で読んだ。
経営、雇用形態の変化、家族の変容、個の
志向とオウム、アメリカとの関係と戦後の
歴史が論じられる。私は政治の動きぐらい
しかあまり興味がなかったので、経済の動
きには無頓着だし、社会の移り変わりにも
あまり敏感ではなかったといえる。そんな
ふうにここまできられたのはある意味では
幸せだったといえる。
しかし戦後復興、高度成長に並走してきた
私(作者の2才年下である)の幸せ感はこ
の時代の恩恵によってやってこられたのだ
と痛感する。私の暮らしを彩った木綿のハ
ンカチーフも中島みゆき村上春樹もみん
なこの時代の流れの中にあったということ
だ。
わが身においてもリストラもあったし、家
族も問題を抱えながらも、それでも小さく
て確かな幸せ感を捨て去らずに済んだのは、
楽天的なのか、身の丈ほどの豊かさで満足
できる性格なのか、それとも残りの人生を
直視したくない表れなのかはわからない。
でも、立ち止まってみれば、ずいぶん遠く
まできたんだなと思う。
ところで、ふと考えるのだが、このように
今の立ち位置を確認するという作業は、幻
想であるにせよ小さな幸せ感を手からこぼ
す作業なのかもしれないとも疑ったりもす
る。さて。