高村薫「冷血」(上)(下)

冷血(上)
冷血(下)
久しぶりの合田雄一郎の活躍。そして高村
薫は「晴子情歌」「新リヤ王」「太陽を曳
く馬」の難解3部作を越えて、再び物語性
のある作品を書いたかと期待して読む。
上巻前半は被害者親子の生活、日常を丹念
に綴り、一方加害者の暮らしぶりもこれで
もか書く。そして偶然にも近い接点があり
あっけなく事件。ここまで圧倒的な物語。
下巻になり合田が加害者の心情、闇の中に
入っていこうとするがたどりつけず。現代
の犯罪の特異さ、動機や理由や認識すらな
い殺人をどう解釈するのかに苦しむ。それ
は私たちも同様であり、そういう世の中で
生きていることを実感する。
加害者は文中でこう云う、自分のために後
悔はする、でも反省はできねえ。
高村薫の思索が見える物語だ、堪能した。